文献紹介1-1 (事務局 田村和夫編集、”by KT”の記載は田村のコメント)2023/8/25

Lugtenburg PJ, Mutsaers PGNJ. How I treat older patients with DLBCL in the frontline setting. Blood 2023;141(21):2566-2575

はじめに:オランダの血液内科医 Pieternella J. Lugtenburgと Pim G. N. J. Mutsaers による“How I treat older patients with DLBCL in the frontline setting” を紹介する。彼女たちのexpert opinionのように見えるが、エビデンスが少ない領域で果敢にextensiveなreviewに基づき提言をしている。現時点での妥当な治療戦略を示していると考えられる(by KT)。
1.まず、高齢者のDLBCLの生物学的特性として年齢とともに予後の悪いABCタイプが増えること、VH4-34IgH遺伝子発現B細胞が増加すること、EBウイルス陽性DLBCLは高齢者に多く見られることを述べ、
2. 次に、抗リンパ腫治療に適しているかどうか(fitness)の評価をItalian Lymphoma Foundation (FIL) 1353例のregistry研究1)からsimplifyした高齢者総合機能評価を使い、標準治療が可能なfit、治療強度を減弱した治療が可能なunfit(vulnerableと同義と考えて良いby KT)、積極的なリンパ腫治療が困難なfrailに分類すると、予後がきれいに分かれることを紹介しています。
Fit:ADL ≧5、 IADL ≧6、 CIRS-G 0score=3-4 または ≦8score =2、 年齢く80 Frail: ADL く6、IADL く8、 CIRS-G ≧1 score=3-4 または≧5 score =2、 年齢≧80 Unfit:80歳未満と以上で分かれているが、fitとfrailに入らない例

1)Merli F, Luminari S, Tucci A, et al. Simplified geriatric assessment in older patients with diffuse large B-cell lymphoma: the prospective elderly project of the Fondazione Italiana Linfomi. J Clin Oncol. 2021;39(11): 1214-1222 

文献紹介1-2 (2023/9/6)

1.標準的ながん治療に適した/耐えられる元気なfitな患者のマネジメント
1)抗リンパ腫治療
標準治療は、R-CHOP療法 3週間ごと 6~8サイクル
 投与回数において6サイクルと8サイクルのどちらが良いかは不明だが、6サイクルで良い可能性がある(GOYA trialなど)。
・ 高齢男性はRituximab(RTX)のPKが悪いことから女性に比べ治療成績が良くない。
 男性に対し女性よりも1/3多いRTXを投与すると治療成績が改善したとの報告がある。
・ polatuzumab vedotin-R-CHP がR-CHOPよりややPFSが延長するが、CR率、OSに差がない。
 60歳以上の症例で検討するとパワー不足だが、PFSがすぐれる傾向を示唆している。
 ただ、OSに差がないことから
 polatuzumab vedotin-R-CHPがR-CHOPに代わって標準治療になることはないだろう。
・ 標準的な薬剤量、dose intensityにより多くの高齢リンパ腫患者は良好な治療成績を得ることができる。
 RDI< 70%では、成績が悪くなる。
 80歳未満では標準的な用法・用量で良好な成績が得られる。一方で
 80歳以上では、miniCHOPが妥当な治療と考えて良い。
・ R-CHOP治療開始前の5日間、プレドニン 100mg/day(+アロプリノール+水分摂取)投与により、PSの改善や治療関連死の減少があるので考慮する。
 また、CHOP投与前のRituximab+プレドニンの試験も行われている。
・ CNS再発予防:高用量のMTX、MTX髄腔内投与の有効性と毒性とのバランスを考慮する。毒性を考慮してCNS再発予防対策はしないことが多い。
2)支持療法
・ ガイドラインに沿ってG-CSFの予防投与を行う
・ 感染症対策 リスクに応じて対応。感染ハイリスク例に対する抗菌薬の予防投与。
✓プレドニン服用終了後の倦怠感は高齢者に多く、ハイドロコートン(20㎎朝、10㎎午後)または プレドニンを漸減中止とする(プレドニン100mgx4、50㎎ day 5, 25mg day6, 12.5mg day7 & 8)
・ 末梢神経障害:vincristineのdose limiting toxicity
 しびれが強くなり、バランスが悪くなる、腱反射消失、歩行障害が出る前に減量・中止する。施設によっては、治療開始時から減量して投与する例もみられる。治療前より便秘傾向の症例は下剤を治療開始時から予防的に開始する。特に初回治療では、外来受診をday8, 12に行う。

文献紹介1―3(2023/9/13)

2.unfitなDLBCLに対する治療
Note)この論文で記載されている「unfit」は、高齢者がん診療ガイドライン(http://www.chotsg.com/saekigroup/cpg.html) では「ヴァルネラブルvulnerable」にあたり、標準的なリンパ腫治療は困難ではあるが治療強度を弱めた治療が可能な例を指し、そういった例に対するマネジメントについて検討している(by KT)。
・無作為割り付け試験は殆どなく、単アーム試験が多い ⇒ エビデンスが限定的(by KT)
・治癒が期待できるレジメンに耐えられるかどうかを評価する。
標準治療による治療成績とanthracycline減量治療での治療成績を比較すると、後者がやや劣るが治癒が得られる例がある。一方、毒性は軽減されていた(FIL試験)。
・anthracycline減量あるいは他の代替薬に替えることに関しては高齢者機能評価+心機能に依存する。心毒性感受性の高い例(心疾患のある例、高血圧、他の併用抗がん薬、縦隔照射)⇒ 治療前の心血管系の評価と心毒性リスクに応じた治療を選択する。
・客観的な心障害がなく、心駆出率正常、他の心リスクが無ければdoxorubicinを標準量で使用することを考慮する。頻回の心臓モニターが必要。
・心毒性以外の毒性が標準R-CHOP療法で発現するなら、R-miniCHOPを使用できる。
・治療経過中、心毒性の兆候が出た場合は、doxorubicinをetoposide(50mg/㎡ iv day1, 100mg/body、po day2, 3 )に変更する(R-CEOP).
実臨床に妥当なマネジメントとして次のような治療方針を筆者らは勧めている。
 R-miniCHOPで開始し、耐容性に応じてdoxorubicinとcyclophosphamideの用量をfull dose を目指し増量する。増量して毒性が強く出た場合は減量する。
 anthracyclineが使用できない場合は、R-miniCEOPを使用する。
・その他のレジメンとして(みなさんが使用する場合はDLBCLに保険適用があるかを確認してください by KT)
 R-GemOx: 70歳以上または60-69歳でPS2、IPI 0-2が対象60例:RR 75% 2年OS 85%
 R-Gem-COP(R-GCVP):心駆出率障害例が対象62例:半数がAEのため6サイクル終了できず。
 RR 61.3%、2年OS 55.8%、心毒性 15例、G3-4毒性 5例、死亡 3例
 R-bendamustine: RR 62%、PFS 10mo、成績は上記2レジメンに比べて良くない

文献紹介1―4(2023/10/4)

本論文の紹介は、これで最後となります。

3.Frail DLBCL例のマネジメント
80歳を超え、日常生活において自立ができず、支援が必要なfrailな患者は、積極的な抗リンパ腫療法は困難である(by KT)。
1)R-miniCHOPをさらに減量したレジメンでは効果が乏しく、むしろ害をもたらす可能性がある。
 代替治療も困難で現在利用できる治療で治癒は望めない患者群である。
 ただ、個々の症例を検討してみるとfrail例でも、糖尿病のような併存症の治療、短期間の高用量デキサメタゾン治療や緩和照射による腫瘍縮小で閉塞した管腔臓器の開存や除痛・全身状態(PS)の改善により抗リンパ腫治療が可能となる例もある。そういった例では、治療強度を減弱した抗リンパ腫治療により効果が得られる。
2)支持・緩和治療が適用となる
 放射線照射:局所の腫瘍コントロール、症状緩和として使用される。
 コルチコステロイド:一時的な効果が得られる
3)新規薬剤
・新規抗体薬 bispecific antibodies:
 unfit例でも十分耐えられ効果があるとのP1/2の報告がある(mosunetuzumab単剤治療で8/19例でCRが得られた)。AEとしてcytokine release 症候群 Grade1-2(27-59%)、好中球減少G3以上19-25%、FNは発生率は低い。
・抗体ー抗がん薬コンジュゲイト
・免疫調整薬
 これらの薬剤は従来の殺細胞性抗がん薬と異なる毒性profileを持っていて、高齢者にも使用できる可能性がある。
4.臨床研究の方向性
 これからの臨床研究は高齢DLBCL患者の適正な治療を求めて、日常診療で診る患者を反映させる 治療対象者の選定が必要である。また、患者中心の最終目標を取り入れ、治療の結果の違いが明確に なるだけのパワーがある研究を実施すべきである。

文献紹介