EPOC Project

EPOC Projectとは


Educational Project on Optimizing Cancer treatment according to geriatric assessment.
(EPOC Project)
「高齢者機能評価に基づくがん治療方針最適化教育プロジェクト」

 日本人の高齢化に伴い、がん患者の65歳以上の罹患率(75%)、死亡率(88%)は高く、これからも増加することが予想されています。がん診療にあたっては、高齢患者は、加齢に伴う身体・認知機能の低下や併存症、多剤服用、社会・経済的な問題など多岐にわたり、何よりも個人差が大きく包括的な評価が適切ながん治療につながります。また、脆弱な高齢がん患者にあっては診療指針の検討と同時に生活基盤を支える見守りや介護が必要です。したがって高齢がん患者の診療には医療・介護チームによる質の高い全人的なケアが求められます。そのためには医療、介護・福祉関係者の教育・研修が必要であり、本プロジェクトでは教育ツールの開発と研修プログラムの企画・実践を行います。また、患者・家族や地域住民に必要な老年医学、腫瘍学の知識やケアに関する情報の発信も重要であり、その準備を行います。(本プロジェクトは、日本癌治療学会・ファイザー 公募型医学研究プロジェクト事業の一環として実施される)

研究概要

1.背景

日本は、総人口に占める65歳以上の割合は32%と世界一の長寿社会で、今後も日本の高齢化は進んでいく。それを反映して非高齢者のがん罹患は減少傾向である一方で、高齢者のがん罹患率は75% (2019年)、がん死に占める高齢者割合は88% (2021年)と年々増加しており、医療界のみならず社会的な問題となっている。がん診療にあたっては、高齢がん患者は、加齢に伴う心身の機能の低下や併存症、多剤服用、社会経済的な問題など多岐にわたり、何よりも個人差が大きく高齢がん患者の包括的な評価は適切ながん治療につながる。また、脆弱な高齢がん患者にあっては、診療指針の検討と同時に生活基盤を支える見守りや介護が必要である。したがって高齢がん患者の診療には医療、介護・福祉関連の多くのstakeholderが関わる医療・介護チームのケアを必要とする。彼らの連携ならびに医療・介護に関する教育・研修を通してチームケアのレベルアップが重要と考えられる。

2.本プロジェクトの概要

1)目的
本プロジェクトは、高齢がん患者に対して適切な評価基準に基づき評価し、安全で効果的ながん治療・ケア・生活支援を提供できる医療従事者を育成することを目的とした。さらに、GAに基づく治療方針を最適化するための施設間ネットワークの構築と地域医療における人材育成を目指す。拠点病院では研修会を実施し、老年腫瘍学の普及と高齢がん患者の適切な評価に関する教育を行う。また、スクリーニングツールG8のデジタル化により、在宅医療や介護におけるGAを簡便化し、マンパワー不足の状況の中でもタブレット端末やスマートフォンによる電子カルテへのデータ入力・取り込みを容易にする。
さらに、医師、看護師、薬剤師、作業療法士、理学療法士、介護士を対象に、がんに関する知識や技術を高めるための勉強会を開催する。高齢のがん患者、特に社会的弱者に対するシームレスな医療・介護の事例を共有し、連携モデルを構築する。
患者、家族、介護者が自宅からスマートフォンで健康管理やがん関連情報に便利にアクセスし、意思決定を共有しやすくするためのビデオや二次元バーコードの作成に教育的努力を傾注する。

3.プロジェクトの対象者(受講)と研修

1)がん治療を実施する側の医療担当者
全国の拠点病院は456施設(2023年4月1日現在)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/gan_byoin.html]であり、それぞれの施設には多職種からなるがん治療チームがある。そのコアメンバーを対象とする。すでに2023年3月4日に拠点病院(472施設)に参加を呼びかけ、高齢者のがんを考える会議8、「高齢者のがん診療ガイドライン」の研修会を実施し、全国から医師、看護師、薬剤師を中心に1350名の参加者があり、高齢者のがん診療ガイドラインの普及に役立ったものと考えられる。
2)地域(在宅、施設)で高齢がん患者を支える医療・介護チームの教育
 地域の中核病院と地域の医療チーム(診療所医師、看護師、薬剤師、介護支援専門員(ケアマネジャー、介護福祉士等)が連携して研修会を開催する。 
モデル事業として医療と介護の連携を目指した、福岡県の旧炭鉱町の独立行政法人(旧町立)くらて病院を中心とした「くらてプロジェクト」ならびに拠点病院で埼玉県日高町にある埼玉医科大学国際医療センターと在宅療養支援診療所を中心とした「さいたまプロジェクト」のなかで、教育・研修事業を行い、その経験から全国に拡大していくことを計画する。

【対象者の所属学会・団体】
・日本在宅医療連合学会に所属する会員は3,108人(2019年)である。  ・訪問看護ステーションを中心に在宅医療を担当している看護師は62,157人(2020年[https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/20/dl/kekka1.pdf])である。
・調剤薬局の薬剤師は全国に188,982人(2020年[https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/dl/R02_kekka-3.pdf])いる。
訪問薬剤に関わっている薬剤師は1172人(全国薬剤師・在宅療養支援連絡会会員数)、 全国で理学療法士は約20万人、作業療法士は約9.4万人(2020年)が国家資格を持っており、その多くは病院や診療所に勤務していると考えられる。
日本理学療法士協会に所属する会員133,133人のうち15,119人、日本作業療法士協会の会員62,294人のうち9,358人が老人福祉施設等に勤務している。
・介護職員数は214.9万人、2021年度[https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001211181.pdf])
介護支援専門員(ケアマネジャー)188,170人(令和2年)
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/21/backdata/01-01-02-38.html]である。

4.プロジェクトプラン・スケジュール

(1) プラン
 本プロジェクトは、以下のグループに対する教育・研修からなるプログラムで構成される。
① がん診療拠点病院
 がんの診断から治療までを担うがん拠点病院が地域医療チームとスムースな連携で患者の治療ができるための基本的な地域医療・介護システムを学ぶ。その基盤となる学問としての老年腫瘍学を生涯学習の一つとしてスタッフ教育は必要である。
・老年腫瘍学に関する基礎的な知識を得るための動画を作成し配信するとともに、研修会を開催する。また、高齢者がん診療ガイドラインの周知のために拠点病院を対象に定期的な研修会を開催する。
・スクリーニングツールG8をデジタル化し(下図)、タブレット端末やスマートフォンから入力し、電子カルテに取り込むシステムを構築する。さらに大腸がんにおける人工肛門をモデルとして、人工肛門を自己管理するのか他人が管理するのか・パウチ交換を座位でするのか仰臥位でするのか・今後の体重減少により最適な造設部位がどこなのかをGAの評価をもとに人工肛門造設術の適応や造設部位を最適化する必要性を学習し、造設位置のマーキング研修を行う。

 

② 地域医療チーム
 地域の中核となる一般病院と診療所、訪問看護ステーション、介護サービス機関が連携するチームが、がん患者の生活習慣病の診療、全身的なケアを行うための基本的ながんに関する知識とがん患者のプライマリーケアの方法を学ぶ。大腸がんをモデルとした基礎的な知識を得るための動画を作成し配信するとともに、GAにより治療方針を最適化する必要性についての研修会を開催する。
 プライマリーケアについては、JASCCの他の部会が作成したものや協働で開発した動画を配信し、研修会を開催する。
(2) スケジュール
全体のプロジェクトのタイムライン:開始2024/1 - 終了2026/12
① 教育コンテンツ開発
医療者向けの老年腫瘍学に関する基礎知識、治療・ケアのアップデート、高齢者がん診療ガイドラインの周知のために拠点病院を対象にした教育コンテンツを作成する。さらに大腸がんをモデルとして、GAにより人工肛門造設術の適応や造設位置等を最適化する必要性を学習するコンテンツ作成を行う。
② モデル研修プログラム
総論的な老年腫瘍学に関する基礎的な知識を得るためのコンテンツ、高齢者がん診療ガイドラインの周知のための教育コンテンツの開発後に集合型のモデル研修プログラムを実施し、アーカイブ化したのちに継続的な研修プログラムとして実施する。各論としては、大腸がんをモデルとしたコンテンツを作成後に順次取り入れていく予定である。

5.プロジェクトの評価・結果の測定

すべての項目においてのナレッジギャップ・プラクティスギャップの解消を評価するのは難しいため、下記データソースが対象となりうる範囲の評価を行い、全体としてのサロゲートマーカーとする。また、研修直前と終了後の直接比較が可能な項目に関しては、前後の変化をプロジェクトの評価として行う。
1)ナレッジギャップの解消
データソース:この領域での判定に使用できるデータソースは少ないが、以前我々が全国340施設にアンケート調査、「高齢者機能評価ならびに介護・福祉に対する医療者の認知度に関する調査結果」をデータソースとして用いる。



評価対象項目:
① 老年腫瘍学に関する基礎的な知識を得るためのコンテンツ
② 高齢者がん診療ガイドラインの周知のための教育コンテンツ
データ収集・分析方法:研修プログラム時のアンケートを行い、データソースとの比較もしくは研修の前後比較を行う。 評価結果とプロジェクトの因果関係を判断する方法:研修時に行うアンケートの前後比較による変化は、時期的に研修と因果関係ありと判断する。また、データソースとの比較については明確には因果関係を個別に判定しにくいため、全体として判断することにより、プログラムによる効果と判定することが可能と考えている。
プロジェクトの予想成果:①②に関して、研修参加者の90%以上が理解できることを目標とする。
  2)プラティクスギャップの解消
データソース:上記と同様に「高齢者機能評価ならびに介護・福祉に対する医療者の認知度に関する調査結果」をデータソースとして用いる。
評価対象項目:①スクリーニングツールG8をデジタル化し、タブレット端末やスマートフォンから入力し、電子カルテに取り込むシステムを構築する。②大腸がんをモデルとして、GAにより人工肛門造設術の適応や造設位置を最適化する必要性を学習し、人工肛門造設位置のマーキング研修を行う。
データ収集・分析方法:①に関しては、実際にスクリーニングツールG8を行った症例を取集し、実施率を分析することにより、データソースと比較する。②に関しては、研修直前と終了後の人工肛門造設位置のマーキング位置の相違を比較することによりプログラムの効果を判定する。
評価結果とプロジェクトの因果関係を判断する方法:研修時に行うアンケートの前後比較による変化は、時期的に研修と因果関係ありと判断する。また、データソースとの比較については明確には因果関係を個別に判定しにくいため、全体として判断することにより、プログラムによる効果と判定することが可能と考えている。
プロジェクトの予想成果:①に関して、現状の実施率20%を70%まで上昇させることを目標とする。②に関して、90%の人が高齢者機能評価により人工肛門造設位置のマーキングを適正化できることを目標とする。

6.その他、プロジェクトに関する追加情報

今回のプロジェクトは医療従事者が対象であるが、患者・家族・ケアギバーを対象としたプログラムも重要である。
・電話機能以外の新しいスマホ機能を学ぶ。総務省スマートフォン教室(地域連携型)「デジタル活用推進支援事業」でスマホの基本的な扱い方をQRコードから読み取って研修する。
・本プロジェクトで作成した医療・介護者用のコンテンツを一般向けに平易・簡潔にし、がんだけでなく健康に関する内容として公開する。QRコードで読み取り自己学習ができるようにする。

プロジェクトメンバー

1)日本がんサポーティブケア学会(Japanese association of supportive care in cancer, JASCC) 教育委員会、地域医療ワーキンググループ
  2015年発足の一般社団法人学術団体でがん支持・緩和医療、高齢者の医療について学術的な活動をしている。JASCCの教育部会に地域医療WGを設置し、関連する他の部会、委員会の協力を得て本プロジェクトを遂行する。
2)共同団体
・特定非営利活動法人 臨床血液・腫瘍研究会(non-profit organization Clinical Hematology Oncology Treatment Study Group, CHOT-SG)
CHOT-SGは、2004年に設立された特定非営利活動法人で、がん患者に対して緩和医療を含む新しい診断法や治療法の開発に関する事業を行うことを目的として活動している。本プロジェクトでは事務局業務を担当し、教育資材作成、勉強会・研修会の準備・開催、ホームページ作成・管理、social media対策など、プロジェクト全体の運営を担う。
・埼玉医科大学 国際医療センター:地域がん診療連携拠点病院である同センターと在宅医療を担う診療所が連携し、地域の医療・介護施設と連携して、高齢がん患者の診療・介護にあたる「さいたまプロジェクト」を推進する。他の地域の参考になるモデルケースを例示する。
・くらて病院:旧炭鉱町鞍手町の中核となる地域独立行政法人くらて病院が地域の医療・介護施設と連携して「くらてプロジェクト」を推進する。他の地域の参考になるモデルケースを例示する。
3)プロジェクトメンバーの役割
・プロジェクトリーダー プロジェクト総括、進捗管理
吉田陽一郎: 福岡大学病院 教授、community-based cancer care WG Chair JASCC
・教育プログラム担当
渡邊清高:帝京大学医学部 教授、 Education Committee Chair JASCC
・埼玉プロジェクト担当
佐伯俊昭: 埼玉医科大学医学部 教授、President JASCC
・くらてプロジェクト担当
田村和夫: 福岡大学医学部 名誉教授、Advisor to JASCC
・大腸がんモデル
愛洲尚哉:聖路加国際病院消化器・一般外科 副医長、JASCC member

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吉田陽一郎(福岡大学病院)e-mail: yyoshida@fukuoka-u.ac.jp